京都地方裁判所 昭和61年(わ)449号 判決 1986年9月29日
本籍
京都市西京区松室扇田町三〇番地
住居
同市伏見区中島秋ノ山町五五番地の一
団体役員
大石忠勝
昭和一〇年一月三〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官肱岡勇夫、弁護人(私選)彦惣弘各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役三年及び罰金二、八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、全国同和対策促進協議会中央本部本部長であるが、
第一 北村吉也、大伴直裕らと共謀の上、右北村がその所有する京都府宇治市五ケ庄西田二九番地ほか一〇筆の雑種地を昭和五八年九月一九日株式会社松原興産に八億四、九九一万六、五〇〇円で売却譲渡したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右北村の実際の同五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は六億一、〇九五万四、七五九円、総合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額は一〇〇万一、七〇九円で、これに対する所得税額は二億一、五四八万一、〇〇〇円であるにもかかわらず、全国同和対策促進協議会中央本部に四億二、〇〇〇万円で売却譲渡したと仮装した内容虚偽の売買契約書を作成し、更に同本部に対し売却に要した費用として造成費一億二、〇〇〇万円を支払った旨仮装するなどした上、同五九年三月一三日、京都市下京区間之町五条下る大津町八番地所在所轄下京税務署において、同署長に対し、右北村の五八年分分離課税の長期譲渡金額は一億八、五八六万二、〇六三円、総合課税の総所得金額は一、七〇九円で、これに対する所得税額は五、五六九万六、五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額二億一、五四八万一、〇〇〇円との差額一億五、九七八万四、五〇〇円を免れ
第二 杉本一郎、前記中央本部事務総長黒宮功らと共謀の上、右杉本がその所有する京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町一六番地ほか五筆の宅地、建物及び付属建物等を昭和五八年五月二六日インターナショナルインベストメント株式会社に四億七、〇〇〇万円で売却譲渡したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右杉本の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は三億六、一八九万八、一七〇円、総合課税の総所得金額は四三〇万三、七二八円、これに対する所得税額が一億二、二九〇万七、八〇〇円であり、かつ右所得は同五八年分として申告すべきところ、右譲渡時期は、同五七年一二月三〇日で、買主は全学校用地整備社であり、しかも全国同和対策促進協議会中央本部(本部長被告人大石忠勝)に対し売却に要した費用として不動産管理手数料一億六、七〇〇万円を支払った旨仮装するなどし、同五八年七月一八日、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、右杉本の五七年分分離課税の長期譲渡所得金額が一億一、五三四万一、九九四円、これに対する所得税額が三、〇二五万円について申告漏れとなっていた旨の虚偽の五七年分所得税修正申告書を提出して前記宅地・建物等の譲渡にかかる所得税について申告ずみであるように装うなどした上、同五九年三月三日、京都市東山区馬町通東大路西入新シ町所在所轄東山税務署において、同署長に対し、右杉本の同五八年分分離課税の長期譲渡所得金額はなく、総合課税の総所得金額は四三〇万三、七二八円で、これに対する所得税額は九万八、一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額一億二、二九〇万七、八〇〇円との差額一億二、二八〇万九、七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
判示第一の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検38ないし44)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検1)及び証明書(各謄本)
一 北村吉也(一一通)、大伴直裕(九通)、奥村善弘(検23ないし26)、李興済(二通)、森本清治、大森直喜(二通)、木村博、大倉瑛子、梅本光生及び澤田敏夫の検察官に対する各供述調書(謄本)
判示第二の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検76ないし80)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(謄本、検45)、証明書(四通)及び査察官調査書(謄本)
一 大川功、和泉義輝、笠原明道、松本庄八、澤井満、山本健司、奥村善弘(検57)、松井信夫、松井善夫(二通)、杉本克子(二通)、杉本仁郎、杉本一郎(七通)、黒宮功(五通)の検察官に対する各供述調書(謄本)
(法令の適用)
罰条
いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項、二項(懲役と罰金との併科刑を選択)
併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(懲役刑については犯情の重い判示第一罪の刑に法定の加重)
労役場留置
刑法一八条
執行猶予(懲役刑)
刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、判示のとおりの方法により多額の所得税を免れたという悪質かつ重大な事案であり、本件において被告人の果した役割や被告人において納税者から多額の謝礼を受け取っていること等に鑑みると被告人の刑事責任は重大であるというべきであるが、被告人にはこれまで前科のないことや反省の状況等をも考慮のうえ、主文のとおり量刑した次第である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 松丸伸一郎)